「えー、突然だが転校生を紹介する。」
「瀧川翠です。宜しくお願いします。」
「迅埜真心だ。宜しく頼む。」

丁度、12月に切り替わった今日。とある高校に、この2人が転校してきた。
瀧川翠と、迅埜真心。
転校生だ、無論この2人の事を知っている人間など、この学校には居ない。居ない筈だ。
―― ところが、だ。この学校には、この2人を知っている人間が4人もいた。
そのうちの1人、水城司が椅子からガタッと落ち、更にもう1人、芳澤南都が勢い良く立ち上がった。

「翠に真心!?何でいるの!?」
「そうだよ、何でいんだよ!常識的に考えてありえな」
「司、今は座りなさい。」
「なっちゃん、後にしようよ。」

麻生冬姫 ―― 2人の事を知る人間の3人目 ―― に言葉を遮られ、渋々椅子を立て座りなおす司。
南都も、上原夕貴 ―― 2人を知る人間の4人目 ―― に袖を引っ張られ、スタンと椅子に腰を下ろす。
その間にも、2人は1番後ろに追加された机へと向かっていた。



そして朝のホームルームも終わり、普段なら1時間目の授業の準備をする時間。
そんな時間に、転校生である翠と真心は、当然ながらクラスメート達に囲まれていた。
正確には、先ほど騒いだ夕貴、南都、司、冬姫の4人にだが。

「で?どういう事なんスか。」
「もしかして、また何か……。」
「いえ、何もありませんよ。久々に休暇を貰ったので、どうせなら変わった事をしよう、と。」

夕貴の疑問には、翠がニッコリと笑って言葉を返した。
しかし、4人にはその答えすら不可解であった。

「休暇?」
「変わった事って?」
「たまには息抜きをしてこいと言われてな。あっちで出来る事は大抵やりつくしたから、こっちに来てみたんだ。」

真心の言葉で、大体の事情は飲み込めた4人。
しかし、だ。こっちに来るのは良いにしても、何故態々学校などという面倒臭い所に来たのだろうか。
その疑問は4人とも持っていたらしく、代表として夕貴が質問したら、これまた翠がニッコリ笑って答えた。

「僕達が生きていた時代には、こうした学校っていうものが無かったんですよ。だから、一度体験してみたくて。」
「とは言っても、1ヶ月の休暇だからな。今月一杯という事になるが。」
「へぇ、そうなの。 ―― ん?ねね、閻魔様は来てないの?」
「琥珀なら来てるけど……黒曜は閻魔だから、休暇なんてあるわけないじゃないですか、南都さん。」

普通なら僕達も無いんですけどね、と言葉が続いたが、その言葉に夕貴と冬姫は苦笑を漏らす。
その傍で南都はズーンと落ち込み、司は、あ、と言葉を漏らした。

「そういやお前らってさ、今何処に住んでんの?毎日あっちから通ってるんですか?」
「まさか。近くに黒曜名義でマンション借りてるんですよ、琥珀はお留守番。」
「マンション!?っはー、一々豪華だな……。」
「あ、チャイム。それじゃお二人とも、また後で。」

チャイムと同時に教師が教室に入って来、何だかんだで今日という1日が始まった。







その後の授業では、転校生だからという理由で、翠と真心は1つの授業で必ず1回は当てられた。
地味にあの2人、勉強なんか出来るのか?と心配したが、それこそ要らぬ心配だったようだ。
特に国語 ―― 古典の時に至っては、先生が眼鏡を突き破る程、目を飛び出させる回答をしていた。

そして、待ちに待った昼休み。
当然例の4人は、翠と真心の所に集まっていた。

「お前ら、弁当は?」
「心配するな、ちゃんと持ってきている。」
「心配はしてないと思うよ、真心……僕達こっちに来る前に少し勉強してきたんですが、屋上はあるんですか?」
「ありますけど……屋上でお昼ご飯って。」
「どういう勉強してきたのよ、翠。」
「まぁ良いじゃない、南都ちゃん。 ―― 寒くて、誰も居ないと思うわ……。」

冬姫の言葉に、現代組は思わず目線を逸らす。
今は師走、冬真っ只中だ。そんな中、屋上でお弁当なんて考える阿呆は居ないだろう。
逆に言えば、このメンバーだけでゆっくりお昼を食べられるわけだが……。

「?えっと、屋上あるんですよね。行きません?」
「そうだな……んじゃ行くか。」

司の言葉で、ある意味覚悟を決めなければ……と思うと、知らずのうちに溜息が漏れる。
そして6人は、お弁当片手に屋上へと向かった。



「さ、寒っ!」
「ちょ、これってもしかして自殺行為?」
「せめてマフラーぐらい持ってくれば良かったね……。」
「そこまで頭が回らなかったわね……翠さん、真心さん。大丈夫?」
「大丈夫ですけど……冬の空気は綺麗で良いですね。」
「そうだな。教室というやつは、息が詰まって正直疲れるからな……。」

やっぱり死神っていうのは、寒さとか感じないんだろうか、といった考えが頭の中をよぎる。
でも今は体があるから此処にいるんであって、それなら感じる筈だよなぁ……と自問自答を繰り返す4人。

「よ、よし、あの辺に行こう。直接風はこないだろ。」
「そ、そうね。翠さん、真心さん。あそこに行きましょう。」

しかし、風は来ないとは言え、此処は影だ。とてつもなく寒い。
現代組はガタガタと震えつつ、お弁当箱を取り出す。
しかし、翠と真心のお弁当を見、寒さとは別の意味で4人はピシィッと固まった。

「 ―― ……す、翠さん。それは一体……。」
「真心が作ってくれたんですけど……何か可笑しいですか?」
「ビデオとやらを見ながら作ったんだぞ、失敗はしていないと思うが。」
「いや、まぁ確かに美味しそうだけど……その桜でんぶは一体。」

翠のご飯部分に、桜でんぶで『真心LOVE』という言葉が描かれている。しかも、ハートで囲むというおまけつき。
逆に真心のお弁当には、『翠LOVE』と同様に描かれているわけだが。

「私達が見た奴らの弁当に、こうしてあったんだが。違ったか?」
「間違ってはいない、間違ってはいないんだが、なんつーか……な、なぁ冬姫。」
「え、ええ、そうね……お2人とも、どういったビデオをご覧になったんですか。」
「えーっと、確か『夕日に向かって走れ、叫べ、青春だ!』とかいうタイトルだったかと。」

何それ……!4人の心中はバッチリ一致していた。
何だそのベッタベタすぎるタイトルは。ある意味興味が沸いてしまうでは無いか。

「ち、因みにそのビデオは何処かで借りたんですか?」
「いえ、黒曜がこっちに来る際にくれたんですよ。」

あの人は……!間違ってはいないのだが、何て面倒臭いビデオを。
一体いつの時代のビデオなんだ、そもそもビデオという時点で少し古い。

「ったく……あのな、翠サン、真心サン。それはちょっと古いんスよ、最近はこういうのが普通。」
「そ、そうそう、こういうの。真心、覚えて。」
「そうか、古いのか……黒曜め……!」
「わー、落ち着いて真心。知らなかった僕達にも責任はあるよ……。」
「責任とかの問題じゃ、無いような気もしますけど……。」
「そうね……でも、真心さんは本当に翠さんが好きなのね。お弁当を見れば分かるわ。」

確かに……間違った知識の賜物とはいえ、普通恥ずかしくてこんなお弁当作れやしない。
一体どんな顔をして真心が作ったのかは知らないが、それを普通に学校に持ってくる辺り、やはり愛だろう。

「 ―― ま、まぁアレだ。凍え死ぬ前に弁当食おうぜ……。」
「そ、そうだね。それじゃ、いただきます。」
「い、いただきまーす。」

その後は、青春っぽくおかずを交換してみたり。
他愛も無い事を話しながら、凍えるような寒空の下、何とか生き延びた。







「ねね、今日2人の家行っても良いかな。」
「琥珀さんにも会いたいですし……もし、ご迷惑じゃなかったら。」

放課後になって、帰る準備をしている真っ最中。
マンションを借りていて、琥珀はお留守番との事。1回で良いから是非見てみたい。
何せあんなお弁当を持ってくるような人達だ、どんな部屋なのか大変興味がある。

「ああ、元々誘うつもりだった。来い。」
「大した物は置いてませんけど……是非。琥珀も喜びます。」

そして4人は、翠と真心宅 ―― 正確には黒曜宅 ―― に招かれる事となった。



「ただいまー。琥珀ー?皆連れてきたよー。」
「おー、お帰りー。久しぶりだなー、ボーズ達。」
「琥珀さん、お久しぶりで……こ、琥珀さん?」
「真心……琥珀って、狐だったわよね。これ……。」
「現代で狐を飼うわけにはいかないからな、犬にいれてみたんだ。」

そう。真心の言う通り、今目の前に居るのは犬。紛れも無く犬。どの角度から見ても犬。
ペット可のマンションではあるが、狐なんて管理人にとっても予想外だろう。
というわけで、残念ながら琥珀の体は犬と化した。

「へぇー……ま、可愛くて良いんじゃね?」
「可愛いとか言うんじゃねぇよー!」
「あら司、その言い方はちょっと違うわ。狐の琥珀さんも、十分可愛かったじゃない。」
「だから、可愛いとか言うなー!」
「はいはい、琥珀ちょっと落ち着いて。さ、どうぞ。」

靴を脱いで、中へと通される。
そこがトイレでそっちがお風呂です、などと説明されながら、最初に通されたのはリビング。

「 ―― ……えらく、殺風景ですね。」
「馬鹿ユウ、せめてシンプルって言いなさいよ、シンプルって。」
「え。あ、ああそっか。シンプルで良いですね、スッキリしてて。」
「遅ぇよ夕貴……でもそうだな、えらく物が無いな?」
「1ヶ月限定の住まいですから。」

翠の一言で、そうか、と思わず納得してしまう。
2人は元々現代の人間では無いし、1ヵ月後にはまた帰る。
物で溢れ返させても、帰る際が色々大変というわけだ。

「それよりどうだ、晩飯食べていかないか。私が作ってやる。」
「真心が!?食べたい食べたい!ね、ユウ!」
「そうだね。何だかお邪魔してばっかりですけど。」
「気にしないで下さい、多い方が楽しいですから。司さんと冬姫さんはどうですか。」
「ええ、是非。ね、司。」
「おう!」

しかし、何だかんだで女3人で料理を作る事になり、男3人は暇になってしまった。
これ何十型だよ、と思える程大きなテレビからは、夕方のニュースが流れている。

「宿題も、今日は珍しく何も出ませんでしたからね……。」
「そうですね。お招きしたのに、時間を持て余させて……すみません。」
「気にしなくて良いっスよ。ほーれ琥珀、猫じゃらしだぞー。」
「いえーい!って馬鹿にすんな、俺は狐だ!」
「今は犬じゃねぇかよー。」
「猫じゃらしにじゃれつく犬がいるか!」

どれもこれも的を外れてる気がする。そう思うと、思わず苦笑が漏れる夕貴と翠である。
しかし、確かに中身は琥珀でも見た目は犬。何だか必要以上に構いたくなる。
そう思ったら勝手に体が動いて、翠は琥珀の尻尾を掴んでズルーっと自分の方へ引っ張る。

「おわっ!?ちょ、翠何すんだよ!」
「いやー、狐とはまた違うよねと思って。何だか可愛く見える。」
「はぁ!?」
「そうですね。狐と犬じゃ、また構い方が違ってきますよね。」

ポフポフ、と琥珀の頭に手を置く夕貴。
翠は何を勘違いしているのか、喉を撫でている。オレは猫か。そう突っ込みたい琥珀である。

「だー!お前らいい加減にしろ!オレは狐だ、犬でも猫でもねぇ!!」
「分かってはいるけどさ……ねぇ、夕貴さん。」
「ええ……司もそうでしょ?」
「まぁな。」

なんて会話をしていたら、いきなりテレビがブツッと消えた。
夕貴と司が何事!?といった感じで反応したが、翠はきたか、といった感じだ。

「ましーん、きたよー。」
「ああ、今行く。 ―― 何の用だ、黒曜。」
『何の用だ、じゃねぇだろ。今日はどうだったんだ。』
「キャー、閻魔様ぁ ―― !」

テレビが消えてまた映った、と思ったらそこにはドドーンと黒曜が映っていた。
そんな黒曜に反応したのは、勿論南都。キッチンをドタバタと出てくる。

「お久しぶりですっ!」
『ああ、久しぶりだな。それで、どうだった。学校1日目は。』
「特に問題は無いよ。 ―― そうだ、黒曜がくれたこのビデオ。古いんだって。」
「夕貴達が教えてくれなければ、危うくお前の事を信じる所だったぞ。この能無しが。」
『何だと!?今のは聞き捨てならねぇな、真心。』

会話から察するに、恐らく今日はこういう事があった、などと報告しろといった所か。
しかし、一体どういう仕組みでこのテレビと繋がっているんだろうか。
―― なんて、考えるだけ無駄か。

「閻魔様は、こっちに来れないんですよね。」
『いや、行けんわけでは無いが……仕事が溜まるからな。』
「溜まってる、の間違いでしょ。サボらないでよ。」
『分かってるって。まぁ、何かあったら連絡寄越せ。』
「はいはい。じゃぁね。」

翠の言葉を最後に、ブツッと再びテレビが消える。
そして再度ついた時は、さっきまで見ていたニュースが映っていた。

「閻魔様……相変わらず格好良いわー。」
「南都の感性がよく分からん瞬間だな……それじゃ、続けるぞ。」
「はーい。」



その後は特に何も無く、段々とキッチンから良い匂いがしてくる。
その間に翠はお風呂を沸かしに行ったり、相変わらず琥珀で遊んだり。
そんな事をしている間に、リビングの机にはズラリと料理が並べられた。

「わ、何だか凄いですね……なっちゃんはどれ作ったの?」
「いや、何だかんだで私、切ったりしただけなのよね。あははははは。」
「私も、そんなにお手伝いは……殆ど、真心さんが作ったんですよ。」
「何かあれだな、ばあちゃんの料理みたいだよな!」
「ちょっ、司さん……!」
「 ―― ほう。誰がばあさんだと?」

ギラリ、と真心の目が光る。
その眼光に、思わずひぃっ、となさけない声を上げながら、勢いよく後ずさる司。
確かに豪華な和食はおばあちゃんといった感じはするし、真心だって実際年齢はおばあちゃんみたいなものだ。
が、見た目が若いものだから、そう言われたら少なからずショックだ。

「 ―― 座れ。」
「は、はい。」
「滅多な事口にするもんじゃねぇぞー、司。」
「お前もな、琥珀。」
「いいいいひゃいいひゃい!!」

何故か翠の膝の上に座っている琥珀の口を、これでもかという程横に引っ張る真心。
翠は翠で助ける気が無いのか、苦笑を漏らしつつポフポフと頭を叩いている。可哀相に、琥珀。

結局その後は、十分絶品と言える日本料理に舌鼓をしつつ。
食休みを挟んで、夕貴、南都、司、冬姫は黒曜宅を後にした。







それからというもの、学校帰りに赤いピエロが目印のファーストフード店に寄り道したり。
ゲーセンに行って、6人でギュウギュウ詰めになりながらプリクラを撮ったり。
週末はカラオケに行って、現代の歌を知らない翠と真心に無理矢理歌わせようとしたり。
何て事をしながら、あっという間に月日は流れ(早いよ)とうとう終業式の日がきた。

『えー、それでは皆さん、良いお年を。』



「1ヶ月って早いなー。後1週間ぐらいで、翠サンと真心サンは帰るわけだ。」
「そうですね、今日が21日ですから……まぁ、実質後10日といった所でしょうか。」
「ね、別に1月1日になった瞬間帰るわけじゃないんでしょ?」
「ああ、一応1日の午前中に引き払う事になっている。」
「じゃぁさ、クリスマスと年越しやろうよー!」
「あ、良いねそれ。」
「そうね。皆で料理の材料を買いに行っても楽しいんじゃないかしら。」

ワイワイガヤガヤ、と主に現代組が当日どうするかで盛り上がっている。
そんな4人を見てたら、つい苦笑が漏れてしまう翠と真心である。



ところが、23日の今日。
明日のクリスマスパーティの飾りつけをする為に、夕貴、南都、司、冬姫の4人は黒曜宅を訪れた。
が、何だか散らかっているというか、片付けてる途中というか……。
そんな中、状況を説明された。

「はぁ!?明日、帰る……!?」
「な、何でそんな急に!?」
「すみません、どうしても僕達じゃないと駄目な仕事が入りまして……。」
「本当は今すぐにでも帰らなければならないんだが、帰ったら次いつ来れるか分からないからな。」
「だから、こっちを片付けてから帰る事にしたんだ。」

だから、片付け手伝ってくれ、と琥珀の言葉が続いた。
しかし悲しいかな、4人にはその言葉が届いて無かった。重要なのは、もっと別な所らしい。

「そ、それじゃ明日のクリスマスパーティは?」
「 ―― すまん、そんな余裕は無い。」

テキパキと片付けながら、謝罪を入れる真心。
そんな時、玄関の方からドタバタと慌しい足音が聞こえてきた。

「悪い、待たせた。」
「え、閻魔様!?」
「遅いよ黒曜!誰かさんの所為で帰る予定が早まったんだから、とっとと手伝いに来てよね。」
「サクラとかに色々頼んでから来たんだよ!ったく……おい、お前ら4人はあっちを片付けて来い。」
「元凶が偉そうに命令するな。が、すまない。手伝ってくれるか、4人とも。」

3人の会話をボーっといった感じで聞きながら、真心にお願いされ、ハッと最初に気付いたのは夕貴。

「は、はい。じゃ、じゃぁ僕達あっちを片付けてきますね。行くよなっちゃん。」
「え……あ、う、うん!分かった!」
「ったく、しょうがねぇな……行くぞ冬姫。」
「え、ええ。」

背中を丸めながら、居間を出て行く4人。
そんな4人を、申し訳ない気持ちで翠と真心は見送った。



「つーか明日って何だよ、明日って。急すぎだろ。」
「でも、今日はまだいるんだよね。1日早いけど、今日パーティ出来ないかな。」
「うーん、飾りつけも何もないけど……料理だけなら何とかなるかしら。」
「閻魔大王さんもいるし、人数多い方が楽しくはなるよね。」

でも、あの3人はどう考えても料理するとかいう余裕もなさそうだよね、とか。
クリスマスプレゼント家なんだけど、とか。
あーだこーだ話し合ってる間に、女子2人が一度家に帰り、買い物をしてくる事になった。

「てなわけで、ちょっと帰るね。」
「夕貴くんと司は残るから、悪いけど……。」
「いや、というか無理してパーティしなくても良いんじゃないか?」
「本当、お気持ちだけで結構ですから……。」
「馬鹿、じゃぁ翠と真心の為に買ったプレゼントどうしろっていうのよ。逆に困るの。」
「す、すみません……。」
「それじゃ、ちょっと抜けるね!」



その後冬姫はスーパーへと直行し、南都は4人で買ったプレゼントをとりに夕貴の家へと向かい。
即効でスーパーに戻り、冬姫と大量に買い物をしてから、再び黒曜邸へと戻った。



「ただいまー!買い物してきたよ!」
「 ―― これまた大量に買ってきたな、南都、冬姫。」
「現世最後の夜でしょー!盛り上がろうよ!」
「南都ちゃん、私ちょっと司達見てくるわね。」
「あ、うん!」

さっきまでは若干落ち込んでいたが、買い物して少しは気が晴れたか、やる気になったか。
少なくとも楽しそうだな、という印象を与えてくれる南都である。
そして、料理は南都と冬姫に任せ、残りの面子は片付けに没頭した。



「腹……減った……。」
「ちょ、司倒れてないで……冬姫さん、助けて……。」
「司!まったくもう、情けないわね。御免ね、夕貴君。うちの馬鹿が迷惑かけて。」
「いえ、気にしないで下さい。 ―― あ、料理出来たんだ。」
「準備終わってから呼びに行こうと思って。ユウ、手伝ってー。」

1時間程経って、頼まれていた部屋の片付けが終わった夕貴と司は、リビングへと戻ってきた。
死神組は相変わらず片付けをしているが、机の上には料理がズラリと並べられつつあった。

「翠、真心、閻魔様、琥珀ー。ご飯食べよ、ご飯ご飯!」
「あ、もうそんな時間ですか。すみません、全部作らせて……。」
「大丈夫大丈夫!はいはい、皆座ってー。」

円形の座卓を、7人と1匹で囲む。中々にギュウギュウだ。

「それじゃ、1日早いけど。メリークリスマース!!」
「メリクリー!!」
「めり、くり?」
「メリークリスマスの略ですよ、翠さん。」
「成る程、現代は言葉を略すのが常識なようだからな。黒曜、お前はKYが何の略か知るまい。」
「はぁ?何だそれ。」

現代に生きる人間でも、KYを知らない、知っていてもつい最近知ったばかりの人間もいるから黒曜の反応は当たり前である。
しかし可哀相に、この中で唯一知らない人間という事で、黒曜は全員のおもちゃにされるのだった。



「そうだ、はいこれ!翠と真心にクリスマスプレゼント!閻魔様も来るって分かってれば、用意したんですけど……!」
「え、あ、有難う御座います。」
「すまない……だが、私達は何も……。」
「気にしなくて良いですよ。良かったら開けてみて下さい。」

翠と真心は一度顔を見合わせ、手元の袋をガサガサと開ける。
そして中から出てきたのは、色違いのオルゴール。

「何ですか、これ。」
「オルゴールだよ!あのね、此処を回して蓋を開けたら、曲がなるの。」
「ほう。」

南都の説明をうけ、2人そろってキリキリとネジを回す。
少しで良いのに最後まで巻いた真心は、カパっ、と蓋を開けた。
当然、オルゴール特有の音で何かの曲が流れる。

「……何て言う曲だ?これ。」
「 ―― ……ユウ、何だったっけ。」
「真心さんのは『諸人こぞりて』とかいうヤツですよ。翠さんのは『カノン』。」
「俺は、もっと狙った曲選ぼうっつったのによー。」
「あまりにも酷い曲を選ぶから、定番のクラシックにしてみたんですけど……気に入りませんか?」
「いえ、綺麗な音ですね。有難う御座います、大事にします。」

いつの間にか翠も蓋を開けていて、その手の中からはカノンが流れている。
カノンの曲調もあってか、何処かしんみりとした雰囲気が広がる。
が、自分の膝の上でジーっとこっちを見上げている琥珀に気付いた翠は、ニコ、と笑みを浮かべた。

「何、琥珀?もしかして、これにじゃれつきたいの?」
「な、何言ってんだよ翠ー!俺は猫じゃねぇぞ!」
「狐も猫も似たようなものでしょ。 ―― ああ、御免。今は犬だったっけ?」
「す、翠 ―― !!」

翠と琥珀のやりとりに、司が勢いよく噴出してから、全員の笑い声があがった。



「今回は本当にお世話になりました。お送り出来なくてすみません。」
「いえ、僕達も凄く楽しかったです。また、こっちに来る事があったら連絡下さい。」
「閻魔様……!また、会いに来て下さいね!」
「あ、ああ……来れたらな。」
「それじゃ、気をつけて帰れよ。」
「ええ、ご心配有難う御座います。1ヶ月、楽しかったです。」
「じゃぁな、琥珀……が、頑張れよ……!」
「笑い堪えながら言うんじゃねー!!」

なんてやりとりをしながら、夕貴、南都、司、冬姫は帰路へとついた。







改めて、翌日。正真正銘、クリスマス・イヴの日である。
本来、朝から黒曜邸に集まって飾りつけをし、皆で買い物に行って、パーティをする予定だった今日。
が、昨日翠達が帰ってしまった事からそれが中止となり、皆暇を持て余していた。
そして、冬姫は司の元を訪ねた。

「おう冬姫、どうした。」
「えっと……これ、クリスマスプレゼント。」
「あ、マジで?おーサンキュー。開けても良いか?」
「え、ええ。」

ガサガサと、袋の中を漁る司。そして出てきたのは、赤色のマフラー。

「おー、凄ぇな。サンキュー、早速使わせてもらうぜ。」
「え、ええ。」
「えーっと、そんじゃお返し……ホラ。」
「え、な、何?」

後ろに置いてあった紙袋を漁り、小さな箱のようなものを投げる司。
パシッと受け取る冬姫だが、珍しくテンパり気味なようで、少々慌てている。

「あ、開ければ分かる! ―― 言っとくけど、それ買うの凄い恥ずかしかったんだからなっ。」
「じゃ、じゃぁ開けさせて貰うわね…………わ、可愛い。」
「き、気に入ったかっ!?」
「ええ、とても。」

そこから出てきたのは、十字架があしらわれたブレスレット。
特に凝っている部分は無いが、シンプルさが冬姫によく似合う……といった所か。

「有難う、司。」
「お、おう。」
「因みにそれ、私が編んだのよ。」
「な、何!?そうなのか!?う、上手いな冬姫。売り物みたいだぞ。」
「ふふ、有難う。」







司と冬姫がそんな事をやっているほぼ同時刻。南都は、夕貴の部屋を奇襲していた。

「ユ、ユウ!」
「うわぁ!!な、何……なっちゃん。」

自室でくつろいでいた夕貴は、南都の突然の奇襲に思わず飛び上がってしまった。
心臓飛び出るかと思った……そんな事を考えながら、心臓を服の上から抑える。

「あ、あの……これ、クリスマスプレゼント。」
「え、くれるの?あ、ちょっと待って、僕もあげる。 ―― はい、これ。」
「あ、ありがと……開けても良い?」
「良いよ。」

そして出てきたのは、星がついたヘアピンとネックレス。どうやらセットのようだ。

「か、買うの恥ずかしかったから……大事にしてくれると嬉しい。」
「う、うん!有難う、ユウ!大事にする!」
「あ、僕も開けて良い?」
「い、いいい良いよ……。」

何か妙に袋が膨らんでる事と、南都のドモり具合が気になるが、とりあえず開けてみる夕貴。
そして出てきたのは、青色のマフラー。 ―― が。

「 ―― 長い、ね。なっちゃん、自分で編んだの?」
「ふ、冬姫に教えて貰いながら編んだんだけど、気付いたらこんな長さに……編みなおす時間もなくて……。」
「ううん、嬉しいよ。有難う。 ―― でも、流石に長いな……。」

立ち上がって頭の上にマフラーを掲げても、余裕で床につくマフラーである。
どんだけ、と流石に突っ込みたくなる夕貴である。

「あ、そうか。なっちゃん、ちょっと。」
「え、何?」
「 ―― ほら、予想通り。2人で巻くと丁度良いね。」
「 ―― ……!!」

何だかんだで満足なのか、夕貴は南都に向かってニコ、と笑みを向ける。
ところが、お約束な展開に南都は固まり、顔が真っ赤である。

「な、なっちゃん?大丈夫?」
「 ―― 〜〜……!ユウ、だーいすき!」
「うわぁあ!!」

感激のあまり、夕貴に飛びつき、その勢いで押し倒してしまった南都である。







聖なる夜に
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