昔々、あるところに、不思議なトランプの国がありました。
その国の偉い人達は、ハート・スペード・クローバー・ダイヤと、それぞれトランプの称号を持っています。
例えば、国を統べるのはハートを冠する女王様。
女王様を補佐するのは、スペードの時計を持ったウサギさん。
クローバーを模ったハットピンが素敵な帽子屋さんは、三月兎さんと眠りネズミさんとのお茶会が大好きで。
ダイヤを二つに割ったような耳がスマートで、でも身体はダイナマイトなチェシャ猫さんは皆の頼れるお姉さんです。
そんな4人が、トランプの国を取り仕切っていました。
「ふーん」
「あれ、つまんない?アリス」
「だって、アリシア。そんな変な人達が仕切ってる国なんて、すぐダメになっちゃうに決まってるもん」
「……」
「お嬢ちゃん、可愛らしい顔して厳しいなあ。そないつれへんこと言わんといてや、自分らかて頑張っとりますんよ」
「「え?」」
「今日もなぁ、ウチの王さ…ちゃうわ、女王様が…―」
『アンタいつまでゴロゴロしてんのよ、このクソウサギ!
アタシの美少年育成計画のために可愛い男の子連れて来いっつってんでしょ!』
「――って、キーキー言わはるから、しゃーなしに遥々こんなところまでやって来ましたんやで。
穴掘りなんて重労働したおかげで泥だらけやし。あーしんど」
「え?え?いつ穴開いたの…?」
「…スペードの時計ウサギさん?本物?」
「ホンマもんのウサギのおにーさんですよって。つーわけで、堪忍な」
「わあっ!?」
「アリシア!何するの、アリシアを離して!」
「ほんま堪忍な。自分も仕事なんですわ。坊ちゃんも嬢ちゃんも恨まんといてな。…ほな、さいなら!」
「アリス!」
「アリシア!待って!待って、ウサギさん!アリシアを連れて行かないでえええ!!」
こうして、突然現れたウサギ男にアリシアは誘拐されてしまいました。
アリスは無我夢中でウサギ男の後を追い、地面に空いた穴に飛び込みました。
すると、どうしたことでしょう。
穴を潜った先は土の中ではなく、見たこともない不思議の国だったのです……――